目が慣れた後の真暗い部屋は、
脱いでいる服の中の煙さで、
置いてある細いカップの中には七分目まで影が注がれていた。
「洗濯物が乾かないのでそういう試合と思うと干すのにあんまり不毛と思う」
近所さんの言葉は高くも低くもないと婦人は思う。
婦人の出た学校では青い人と赤い人がいて、
空の色が何色かは大体で九つ程度だった。
終わらない雨や日差しというものはないが、
真っ暗な部屋もそれは同様で、
慣れない目はない、
欠けた茶碗には音が封じ込めてある。
「時間と自分が合っていない気がする、
自分がかわいそうなのはただの急所なので殴る相手のが悪い気がする」
「天気も待てないの」婦人(みよじ)はカーテンを見た。
「どうせ、乾かすのに、濡らすのは、変だとは、だってそんな風になったりはしないでしょう」
服の中のような部屋の中に服は沢山つるされていて、
立ち上る煙は粉になって消えていく。
この世の裏側程度の闇の、
洗濯ばさみの宇宙ステーションに、
最高のハンガーがプラネタリウムの、
星座を結ぶ親切の線で、
「あんた最高のハンガーだよ」
「何ていったの」近所さんが訊く。
「そういう風に褒めてみたくて」人のことをと婦人はいった。
朝も昼もない程度の暗い部屋に、
最高のハンガーで着たことのある服がつるされ、
逃げ場のない宇宙の裏側で、
高低のない人間の高さに雨が降る。