晩に望遠鏡で町を見ていると隣家の奥さんが物置に何かを運びこんでいた。
翌日から旦那さんを見かけなくなり白い自動車がどこへも出かけなくなった。
八月で往来に死骸が増え望遠鏡で見る太陽は何か筒物の断面に見える。
夜の外灯に羽虫が多く、
私は厚着をして公衆電話から隣家に電話をかける。
「はい警察です」
「奥さん、奥さん、
旦那さん最近見かけませんね。どうしたんですか。
朝も出かけられないし、夜も帰ってきませんね。
車もずっとありますね。
お宅のお庭は羽虫がすごいですね。物置に何が入っているんですか。
旦那さんはどうしたんですか。アイスのように溶けたんですか。
家にいるんですか。物置にいるんですか。
何かあったんですか。喧嘩しちゃったんですか。
もののはずみで殺しちゃったんですか。それとも事故だったんですか。
何でも構わないんですよ、何かあったなら教えてください。
力にはなれませんが、よかったら教えてください。
電話に出てくださってありがとうございます。
出たくもない電話も近頃では増えたことでしょう。
楽しめないこともたくさんあるでしょう。
犯罪でも後悔したことでもいいんです、
何でもいいんですよいってみてください。
僕今日は人に説教して改心させてやりたい気分なんです。
何がいいたいのかというと旦那さんを殺したからって大丈夫なんですよ。
物置にしまいこんで腐らせることなんてないんですよ。
そんな犬か何かのようなことは、
写真の写りを気にするようなことは今はしなくていいじゃないですか。
大丈夫なんですよ。
僕の部屋の窓からはいろんなものが見えます、
仲のよい人や喧嘩する人や、
ご飯の部屋や寝る部屋や、
すごいたくさんの星も見えます。
星のこと知らなくて、何が何だか判らないんですけど、
そうですよ、漠然としたところに留まるのでも構わないんですよ。
整然とするということは、絵を描くような作業ということで、
毎日そんなすごい化粧は出来ないですよ。
物の断面がはっきり見えるということです。
私はローティーンの頃足が腐って以来部屋から出れなくなり日を過ごしているわけですが、
地球は平和ですね。
断面があるのでしょう、
何かと地続きとは思えない眺めです。
だから奥さんあなたも大丈夫なんですよ。私が見ています、
きっと途切れています。
見る限り歩いていけるような距離に、
怖いことは見当たらないですよ。
きっと大丈夫なんですよ。
今日は人に優しくしたい気分なんです」
電話の向こうは静かなままで私はそこで無言電話を切った。
気が付くと部屋にいたので望遠鏡を手に取り、
窓の外を覗くと隣家の庭に青い鉢花が出してあった。
私への合図には違いなかったが、
人間は馬鹿ばかりだと思い私は相手にしなかった。