雨の図書館で映画を見ていると温かい味噌汁の匂いがした。
一階に下りると巨大な観音が受付で炊事をしていた。
「飲食物なんていいんですか」と聞くと観音は、
本を大事と思うからそういう風に考えるんですよと答えた。
飛び散る芋の皮で絨毯の床は汚れていて、
流し台にされたカウンターは水浸しだった。
調理具を洗うと観音は閲覧者たちに味噌汁を配っていった。
薄暗い閲覧室に汁をすする音が重ねがけするように響いた。
味噌汁の具は芋と大量の茸で、
閉架書庫の奥深いどこかに謎の美味茸が群生しているという噂は真実だとそれで判った。
雨が上がると観音は図書館を出て空間で球技を始めた。
味噌汁を飲んだものはみな巨大な観音になっていて、
たくさんの巨人観音たちが濡れた芝生でバレーをして、
アベックになった自動車たちがその周りでおにぎりを食べている眺めを、
私は図書館の六階から見下ろしていた。
白球は六階の窓辺を何度も浮遊して、
表面に付いた濡れ草のよれがはっきりと目で見えた。
茸が怖いので手つかずの味噌汁茶碗は、
膝の上でゆらゆら揺れていた。