熊のパス子は熊野の生まれで、
道に飛び出し車とぶつかりそのまま車体と合体をした。
車を横向きに着る風なパス子の内臓はぐちゃぐちゃにエンジンと混ざり合い、
カーナビが脳とだいたい入れ替わった。
時速百四十キロの合体は上手く行ったのでパス子はそのまま温泉に向かい、
湧き湯につかると家へと帰った。
四本の足とタイヤ四つで東名阪自動車道を走っていると頭にラジオが入って、
読まれた葉書は中学生の音楽の悩みで、
みなさんみたいに僕も友達とバンドを組んだんですが、一人は家が遠く、
一人はまじめさが少しで、
一人は勉強が大変で、僕は好きな子がいて、
僕はその子に約束して、いついつやるから見に来てと、
その時にね、つまりこの子はばしっとかっこよく決めたいという、
(はあはあおー)であわよくば好きだといっちゃう気でいんじゃねえの、
でもなんか思ったようにうまく行かなくて、
どうしてかっこよくなれないんでしょうか、
なぜ上手く行く方がおかしいんでしょうか、
悩めばいいなら悩んだ順に、
頑張るべきなら頑張った順に、
上手く行けばいいのに、そうじゃないのは何ででしょうか、
僕はすごく今悩んでます、
どうかみなさんどうしたらいいかアドバイスを下さいという悩みなんだよ、
(ごそごそがさがさ)あー、ね、
まず女の子は置いといてバンドのことだよね。
アドバイスの中身はちゃんと話し合うことが大事というもので、
悩んでパーソナリティに葉書を出す中学生の気持ちはパス子には判らなかったが、
そういう子が山ほどいる現実があり、
どれほど壁があったとしても、ぶつかってうまく合体して、
そんな風に何でもみんな乗り切れたならいいのにと思った。
一人にされた中学生にバンドは百人がかりで作った歌を聞かせて、
聞かせるしかないそういう曲は熊にでもとてもいいものだった。
家に着くと乗っていた一家は伸びをしながら玄関に入っていき、
パス子は車庫で体を休めた。
「寝床で聞くラジオは体が透明で、一生聞けない会話ばかりで、
ねえそんなの悪党に向けて話さないでしょう、
畜生に向けていわないでしょう」
どんなラジオも頭にくっついて、
もう止まないなら、つらいと思う。