田んぼ沿いの長い直線を歩いていると道の先から巨象が歩いてきた。
巨象は巨象サイズ十六メートルの巨象で、背中に深紅のバテレンはっぴと頭に麦藁のミトラを纏っていた。
巨象の背後にスーツの男女が鋭利な類の按摩具を持ちめいめい目に血を走らせていた。
振り向くと後方から小役人が進行しており、この畦で間もなく抗争が始まることが判り、
巨象の白い肌は雪原のよう青空に映え、見とれるうち入道雲のように視界を覆った。
門のような象にまたがれ地響きに思わずその場に座り込むと次の瞬間私の背後で血の抗争の火蓋が切られ、
千のナイフが巨象を襲い、足から短くなった巨象がみるみるかさを減らし縮みだし、
スーツの男女が役人を打ち据えて巨象のお留守な足元を守った。
くまのプーさんが現実でクリストファーロビンの許嫁だったように、
秘める魂胆とこぼしてしまったしくじりの中の気持ちだけ恋で美しいなら、
口から摂る食事が歌詞になるのもおかしい筈、幸せの正体も会得は難しくなる、
かく困難に立ち向かう寒村生まれの虚無僧巨象を小役人的立ち回りが破滅から追い立てて、
夏の日象から生まれた子象が稲田の海へと逃げ去っていく。
「妖怪に会うなよ、サイトも作るな、電話を待つのはいいことだろうがびびらず済ませる努力がこさんよ」
手を振る私と役人百人の前で良風に吹かれた象どもは見えなくなって、
見渡す限り長い米草がぐらぐら揺ぐれるばかりになった。