未来の友人たちと可能性の公園で遊んでいると、海の方の出入り口から一匹の怪獣が歩いて寄ってきた。
「こんにちは」ビス子が挨拶し、私やラズ雄もそれに続いた。
怪獣は二メーター超の車みたいな図体で、砂場に這入ると魚のように沈んだ。
「バスに乗り遅れてね」怪獣が指で遠くの停を示した。
「しばらく一緒に遊んでいいかい」
「どうぞ混ざってってください」一番気さくなビス子が笑った。
「砂遊びをしてるんです」
怪獣は腰まで砂に使っていて、砂場がそんなに深かったことにそれで私は初めて気付いた。
自分の足場が急に恐ろしくなったが、まるで雲に乗っているようだった。
怪獣はピンク色、腹だけ檸檬の色だった。大きい口に乱喰い歯が生え、尻尾の先だけ砂場からはみ出ていた。
時計は四時半で、空が火よりは血のようだった。
怪獣が砂に触ると波が立ち砂がこちらへ流れた。私が思わず顔を見るととかげの瞳と視線があった。
「何を作っているの?」
「私はライオン」ビス子が怪獣に答えた。
「雄と雌が六匹のプライド。一番上のメスの腹には死んだ先代の残し子がいるの。
悟られた時は殺されるのでメスは子供を産めないでいるの」
「君は?」
「パフェ」訊かれて私は答えた。
「これが白玉、これが抹茶アイス、これがあずき」
「美味しそうだね」怪獣が舌を出した。「君は何ていうの」
「おれラズ雄」ラズ雄が名乗った。「おれは人体模型を作ってるの」
「もう駄目なんじゃないの?」
「そうだね。もう自分でも駄目だと思う」
「友達はこれで全部?」
「後はノブ子とタオル、男のグレムリン。今日来てるのはそれで全員だよ」
「親はいないの。君たちはどっから来たの」
「二十年先の未来から来たんだ。タイムマシンでは昨晩着いた。
もう夕暮れだけど時間はたっぷりあるんだ、二十年かけて帰ればいいんだからね」
「君たちは友達なの?」
「お互い面識はないよ、僕たちはタイムマシンの友達なんだ」
「タイムマシンはどこに?」
「判らない。透明で見えないんだ。帰ってないなら、近くを飛んでんじゃないかな」
「ふうん」怪獣はお湯のよう砂に肩まで浸かった。
私たちは怪獣と一緒に砂場で遊んだ。怪獣は指が大きく造形は苦手そうだった。
怪獣よりは勝っていると比べて私はほっとしていた。
私のパフェは三分の二までの完成で、今椅子くらいの大きさだった。
底の方から甘みが出ていて、もうじき食べれる筈だった。
食べられることが私のパフェの強みで、ラズ雄やノブ子のそれとは違うと一人心で自負はしていて、
ビス子のライオンも食べられるものだったが、味では需要が被らないはずだった。
「ノブ子やタオルは今どこに?」
「滑り台に行ったはずだよ」辺りを見回す怪獣にラズ雄が答えた。
そう何でも教えて大丈夫か私は少し怖かった。
「三人とももう遊び飽きたんだ」
「ふうん」
「僕も早く作り終えて一緒に遊びに行きたいな」
いったラズ雄の頭と首を怪獣が一口で齧り取った。
血が出てラズ雄の人体模型にかかり、より本物に近しくなった。
「やはりそうか」とビス子がいった。「あなたは怪獣だったのね」
「もう駄目なんじゃないか?」怪獣はいった。
「本当に大事なことはわけが判らなくなってしまった。
真面目に生きてりゃほめてくれるよ、褒められておかしくなっちゃったんじゃねえの。
小手先と友達のことばっか気になって、一番のことはもう届かなくなってしまった。
もう駄目なんじゃないか? お終いなんじゃないか?」
私は慌てて砂を掘った。すぐに底に当たってしまった。まだ完成していないのに、砂がどこにもなくなってしまった。
飽きてしまうと食べられてしまうと思った。完成させないと殺されてしまいそうだった。
きっとノブ子とタオルは遊びに行った先で、喰われて既に腹の中なのだ。
背後で怪獣が見張っている。ビス子は黙って必死の顔で自分のお墓のような砂場を掘っている。
私のパフェだってもうあと少しなのに、怖くて何も作れなくなってしまった。