台風の日にじっとしているといいたいことができたが、
わりと水のように流れてしまった。
ここから五キロほど海に近付くと海で、
逃げるために必要なものは何一つ揃っていない。
八本足のロボットの友達はカチューシャを付けた中学生で、
ロボットはカチューシャを付けられないので、
頭に物を付ける感覚というものに縁がなく、
判らないことは雨のように逃げ場がなかった。
中学生の名前は佐藤か鈴木で、ロボットの名前は鳥か猫で、
抽斗というのは物をしまうのにちっともよくないと佐藤は思う。
抽斗の中に入れてそのまま消えた大切なもの、
小学生の頃は蟹の死骸で、
中学生の今は犬の死骸だった。
蛆と蠅が抽斗の中を覆い尽くし、
犬も覆い尽くし、
開けて閉める度歯ブラシの臭いが辺りに漂った。
ロボットには歯がなく、菌がなく、
顔ダニのいない生物のことを佐藤は考える。
渚カヲルがATフィールドを出すと顔ダニは浮くのか、元より孤立した生き物なのか、
ロボットだろうが生活をすれば菌は付着し、
年をとれば出来ないことが増えていく。
明日を乗り切る方策がなく、逃げるための揃えがなく、
佐藤には学校と家と競馬場しか靴を履いていく場所がなく、
友達は足が八本のロボットだけで、
去年の夏作ったロボットはもう糊がはがれて込めた命は抜け落ちて見えて、
新しいことを始めなければと佐藤か鈴木は思う。
いつか作ったロボットが蠅だらけになる前に、
抽斗に入れて消えてしまう前に、
わけのわからないこといってらあなと悲しくなる前にしておけることくらいはある。
筈で、
尻を叩いて寝る。寝てはいけないが、
いけないからって芸はない。
ロボットだろうが黴菌はあるので生活に付着したものを自慢しないこと、
頭に物を付ける感覚に可能なら負けないこと、
どうしようもないときは、
ほんとうにどうしようもない。