女の子の友達がいる、靴の汚い子で、
よくいじめられていて、それがその子の輪郭に見えた。
ラブ子(その子)は炭酸が駄目で、よくいじめっこに校舎裏へ連れ出されては、
粉末のソーダを水で溶かされて、駅前のケーキとともにふるまわれていた。
いじめられているのと私にいうラブ子の口からは高そうな甘い匂いがして、
私はのろまは嫌いだったので、自分で何とかするようにと伝えた。
自力で解決する力のないラブ子は毎日炭酸水を飲まされ、
季節が冬に差し掛かるとそれは一層冷たそうで、辛そうに見えた。
寒い昼休みにコーラで腹を膨らせて、
苦しそうにげっぷするラブ子を授業中私はぼんやり見ていた。
いろんなアニメに思いをはせる時結局人に動かされる方が人間という物も上等になるので、
あほとか情けないくらいなら誰か操ってやれよこいつということはある、
望みでもあるし、極端ではあるし、好きなもののことでもある。
ラブ子には好きな男子がいて、
それは私や何人かに教えてくれていた。
チャンスマン(その男子)は背は高めで、
牛競技か何かで全中に出たらしく、
気風のよさならなかなかのもので、それが好きだとラブ子は語った。
「平気で語れるんだもんな」別の子がいった。
「好きなら思えて思えば溢れるならいいよな。恥ずかしくないのは全く羨ましい、
恥を忍んで頑張っていってんのなら全く以て結構だな」
「溢れた方が上等なら夏も暑いほどいいよな」
校庭で今日も牛競技部の活動がほり、チャンスマンをラブ子は探し、
炭酸の嫌いな友達のことを私は勉強しながら見ていた。
「どうしたの」ラブ子が私を見た。「紅茶飲む?」
私は水筒の紅茶を分けて貰った。冬の教室に魔法は溶けていた。
「チャンスマン後輩に好きな子いるんだって」
「そう」とだけ私がいうとラブ子は窓に目を戻した。
校庭に牛が多く、湯煙が四階の窓まで立ち上った。もやる十二月に月影が遠かった。
ラブ子は不意にげっぷをして、戻った味に涙を流した。
クリスマスイブにケーキを食べさせられ、いじめっこにシャンパンをかけられたそうだった。
「心が口まで溢れればいいのなら全く結構なことだ、
駄目にした炭酸ならばきっとあんたも飲みやすかろう」
「涙の形に悲しいわけじゃないでしょう」
ラブ子は私を見て笑った。
「雨が降ったら魚になるの。やなことあったらそれだけで死んじゃうの」
私はどうしようもない気持にはなった。
「そうじゃないあんたの所も好きだったのにな。
優しければ味方か。嫌いなら敵か。今本当にそんな思いが溢れるのかい。舌を研いでるのか。
ねえ、どうでもいいようなことしかいえなくなっちゃったんじゃないの。
私もあんたもさ。どう見てもそう見えちゃうよ。
何にならず、目線も定めず、いじめられなくたっていじめられっ子くらいにはなれて、
そういうところ憧れてたよ。かっこいいもんだって」
真っ暗な冬の教室で、廊下にも言葉は無人で、
私がラブ子をちょっといじめてやるとラブ子は口を押さえてその場で吐いた。
ラブ子の口は炭酸とケーキの匂いがして、
ラブ子の匂いが泡のようにクラスに溢れた。