こんな暑い日は蜥蜴をよく見る。
「こんにちは静寂さん」
「こんにちは蜥蜴さん。半袖の人間の、
肘に集まる皮の黒さで救える命の話をします。
二度と人間が肘を曲げなければあの皮で私の悪い顔のよくなさがよくなり、
腕さえなければ社会がないからいじめを隠蔽するのもたやすい。
絵も描きやすくなります」
「僕はこれからプールですが、静寂さんは?」
「税金を納めに行きます。
期限を一日過ぎているので罰せられる筈です。
罰は銀行で楽園という名の小麦粉製のお菓子を食わされ、
ザコンなら母のお兄ちゃん子なら公務員に殴られその場で吐かされます」
「優しいんですねしじまさん。
郷里に置いてきた妹の使っていた座布団を思い出すな」
私は屈んで蜥蜴を拾い耳に乗せると夏場を歩いた。
帽子の日陰で蜥蜴の腹は耳たぶの温度とほぼ同じらしく、
終わり始めたブログのようにそこにあっても何も感じなかった。
「眼鏡やめたんですね」
「海で流されて」
「小学生みたいだ。前は立川みたいだった、今は国立みたいな顔立ちだ」
「眼鏡をやめてよくなることあるかと思ったのですが、
少しもいいことが起こりませんでした。
遊んでばかりいる人間ってどう思いますか。
暑いせいで最近どいつもむかつくんです。
人間のことなんて蜥蜴にはどうでもいいですか」
「カラーマゾフの兄弟を最近読んだんですが人間向けの小説だと思いました。
花火に向きがあるように、自分を感じるときもあります」
そのかーちゃん兄弟やらを読んですらない人間の自分などがいてはいうほど何かが畜生の特権とも思えず、
疎外感すら段々畑のまことイッツアスモールワールドと思った。
駅まで一緒の私たちは改札前でもう一匹の蜥蜴を拾い、
大人一人の切符で三駅向こうの町まで揺られた。
尾を両耳にかけた赤と青の蜥蜴は私の悪い顔面で逢瀬をし、
透ける蜥蜴の影の眼鏡で地元の町を私は眺めた。
最後に吐いたのはいつだったか、
カラオケに行ったのはいつだったか。
冷房で冷えて腹痛くなって、
肘を突くと膝の皮がやや鬱血して真っ赤になった。
死んだような足を見つつかけていた眼鏡を両手で外すと、
眼鏡は蜥蜴になって夏の駅へ逃げていった。