音楽のかかる二番目の教室から目薬さんの笑い声が聞こえた。
校庭は今も拡大を続け、地平の向こうに野球部は見えなくなった。
サッカー部もじき見えなくなる。木陰も既に引き延ばされて、
家に帰ることが出来なくなった生徒が、それぞれの教室で夜を迎えた。
ぶちぶち音を立てて電線はちぎれ、夜の学校のテレビが消え、
明かりといえば月の明かりで、寝るには程よい部屋心地だった。
トイレに行ってから廊下を戻ると教室までがいつもより遠く、
歩く校舎もチーズのように伸び始めているとそれで判った。
間もなく滅びる校舎のどこかに四次元空間への入り口があるらしく、
誰かが投げ入れた錨のせいで都立ごみ倉高校は膨張する宇宙から取り残されたとされ、
座薬先生の雑談が遠ざかり、女子の声が風に呑まれて、
どちらが元かは判らなかったが廊下を引き返しとにかく走った。
残った校舎の内辿り着けた場所が異次元空間への入り口で、
その入り口にはエルモア先生と一年生の事故子が立っていた。
瞬時にこの二人がその実好き合っていたことが了解されて、
事故子がダンス、先生もダンス、
私は思わずカメラを構えて、
桜の匂いする思い出を切り取った。